2018.03.01
今日、超「高齢化社会」が進行していると言われていますが、お年寄りの介護の問題やその財産管理に関する話題には、毎日事欠かないような状況です。
- 1.そのような状況下で、例えば、年取った両親の介護を引き受けざるを得ない長男夫婦やその家族の生活面では、毎日かなりのご苦労が強いられているようです。
そしてそのような状況下で、同居して、お年寄りの面倒をみておられるご長男などが、「認知症」などによって、かなり「認知能力」や物事に対する「判断能力」が衰えてしまっている父親を言い含めて、「公証人役場」に連れて行くか、公証人に出張して来て貰って、「父親が持っている不動産や預貯金は全て長男に相続させる。」という簡単な内容の「遺言公正証書」を作成させるような例が増えています。
これによって、ご長男は、父親の面倒を見ない他の兄弟(弟や妹)、に対して優位に立てるので、現在の辛い毎日を乗り切ることができると考えられるようです。
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2.ところが、このように、被相続人の父親が推定相続人の一人である長男の全ての遺産を相属させるという内容の遺言書を残していたとしても、民法は、いくつかの制度を規定しています。
- 1)まず、「遺留分」という制度です(民法1028条)。
これは、「兄弟姉妹以外の相続人」は、「直系尊属のみが相続人である場合」は3分の1、「それ以外の場合」には2分の1の割合で、被相続人が自由に処分できない部分を残さないといけないと言う制度です。上の例でいうと、弟や妹は、自分の相続分「3分の1」の「2分の1」(つまり各6分の1)は、父親の遺産から貰えると言うことです。
- 2)次に、妹さんが、父親が「遺言公正証書」を作成したとされているのと同じ頃に、父親の見舞いに行った際に、父親は殆ど何も分からないような状態で、自分の事さえ誰だか分からないような有様だったと記憶していたような場合には、そのような状態で作成された遺言書は、たとえ「公正証書遺言」だったとしても、「遺言能力」を欠いた状態で作成されたものとして、法的には「無効」です(民法963条)。
従って、この場合には遺言書が無かったことになりますので、妹さんは、遺留分ではなく、法定相続分である「3分の1」を主張することが出来ることになります。
- 3.このような「遺言公正証書」の無効を争っても勝訴することはかなり難しいとされていますが、当事務所では、既に2件、「遺言公正証書」の無効判決を頂いた経験を持っておりますので、具体的な方法などについてはご相談下さい。
- 4.なお、上記の例のように、遺言能力が無い父親を言い含めて公証人役場に連れて行って、無効な「遺言公正証書」を作らせたことが、そのような「遺言公正証書」を無効にする判決の中で認定されたような場合には、長男に「相続欠格」事由有りとして、「相続人」から排除することも考えられます(民法891条)が、こちらの方は「ハードル」がかなり高いと感じています。